『過労自殺(第二版)』川人 博

電通の女性新入社員の過労自殺から5年が過ぎ、母の高橋幸美さんは取材で「過労死問題で風化を感じています」と懸念を述べている。

仕事が原因で命を絶つ人は19年も約2千人いたことを指摘していたが、
(参考)以下の9ページ
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R02/R01_jisatuno_joukyou.pdf

もしかしたら2019年の三菱電機東芝グループの中核事業会社でのパワハラや長時間の過重労働による自殺をについても存知だったのかもしれない。労災が認定されて公表されないと身近な人以外は知ることは難しいと思うが、幸美さんは過労死等防止対策推進協議会の委員を務める方なので労働環境には常に注視していて、ご存知だったのかもしれない。

東芝系SEが過労自殺 開発遅れ長時間労働、労災認定:朝日新聞デジタル
厚生労働省老健局が発注した介護に関するシステム開発に従事していたという。システム開発は発注者側の関与を必要とするが「ブラック霞が関」という著書(
『ブラック霞が関』千正康裕(せんしょう やすひろ) - willwealth’s diary
)で指摘されていたように老健局側でも開発に必要な仕様を示すことができない状況に陥っていたのではなかろうか。ただ、これはあくまでも推測に域を超えず、推測の上に推測を積み上げても仕方ないので想像癖は慎むこととしよう。

さて、「過労自殺」のニュースを聞き、言葉は知りつつも実態については無知であったので川人博(著)『過労自殺(第二版)』を読んでみようと思った次第である。日本経済が低迷する中、コスト削減や人員整理、達成困難な納期、休日労働・深夜労働が常態化しているブラックな状況は企業だけではなく、医師や学校教員も時代の要請に見合うだけの人員が確保できていない状況にある。

ここでは一つだけ本書の学校教育の現場からの事例をごく簡単に紹介したい。

企業などでは入社すると研修などが行われるが、学校教育の現場では研修期間がなく大学卒業後すぐ学級経営・保護者対応が任される。
2006年に自死した新任女性教員の場合、その他にも以下の職務が割り当てられた。

  • 学習指導部
  • 生活指導部
  • 給食指導部
  • 渉外部
  • 各種委員会
  • クラブ活動(サッカー、バスケット)
  • 新教研(国語部研究会)

相談できる先輩の教員が居る場合はよいが、彼女の学校では他の教員も着任したばかりで職務に忙殺されていたので相談できる相手がいなかった。それでも残業・休日出勤・

深夜まで自宅労働をして、睡眠時間4~5時間で頑張った。しかし、様々な学校行事で一層負担が増し、保護者からの批判にも苦しむようになり限界を迎える。

ついに5月27日、自殺を試みる。このときは未遂で済んだので、週明けに精神神経科の診療を受け抗不安薬を処方され、やや元気を回復したように見えたが、31日に自殺を図り、6月1日に病院にて死亡した。

舌足らず過ぎるので是非、本書を繙いて欲しいのだが、「5月27日の自殺が未遂に済んだにも関わらず、なぜ最終的には防ぐことができなかったのか?」という疑問があったことを指摘しておきたかった。別に学校や教育行政や、まして家族を批判するつもりはなく、ロジカルになぜ防ぐことができなかったのかという疑問である。この疑問には答えを見出してはいないし、私には見出せそうもない。

過労自殺と企業の責任』川人 博

には、うつ病などの精神疾患は健康異常の申告を自主的に行うことは容易ではなく、労働者側からの心身の健康悪化の申し出に応じて対処していくことが難しい現状があるら

しい。精神疾患を患っていなければ、「こんな状況ではこれ以上、勤務できません。」とか「私はこれ以上、この苦痛に耐えるこてはできません。」とか発信し、プランBないしプランCを選択していくことができるかもしれないが、うつ病になると健全な判断ができなくなるという。

今後、過労死・過労自殺を防ぐような方向に徐々に法制度が整い社会環境が変化していくことが望まれるが、もし過労死推奨環境に遭遇してしまったとしても自殺という選択肢は排除して、退職を最終の選択肢として欲しい。退職も視野に入れながら家族、親友に相談し、産業医に紹介してもらうか自分で探すかしてメンタルクリニックを受診し傷病休暇・休職を支援してもらおう。休職もできず状況の改善が望めないようだったら覚悟を決めて退職届を提出してしまう方が良いのではないだろうか。退職届を提出した日から2週間で退職の効果が発生するが、それまでの間にブラックな会社側が懲戒処分の報復、嫌がらせをする可能性があることも覚悟しておいた方がよいかもしれない。あくまでも可能性の話であって、そこまでブラックな会社があるとは思えないが想定外とするよりは想定しておいた方がよいという意味において。


(追記:ご参考)過労死110番へのリンク
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