【労働市場改革】『働き方改革の経済学』矢代尚宏

日本の人口ピラミッドは正に逆ピラミッドになりつつある。
https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2022.asp?fname=G02-01-2.png
この年齢構成で終身雇用的な年功賃金を維持するのは無理筋であろう。

日本で定年制を廃止できないのは「仕事能力の不足に基づく解雇」が認められない包括的な雇用契約をしていることに大きな原因がある。
労働法には明確な解雇規制がなく、不透明性の大きな判例法に全面的に依存していることが問題だという。
所謂、「解雇権濫用法理」という高いハードルがあるため「解雇自由の原則」が実効性を持ち得ていない。

また、早く辞めると損をする定年制が社員を会社の中に閉じ込め雇用の流動性を制約している現状を変革するには、
職務を限定しない包括的なメンバーシップ型の雇用からジョブ型の雇用に転換する必要がある。
メンバーシップ型では「仕事能力の不足に基づく解雇」を行う上で、「仕事能力」を評価することが難しいからだ。
ジョブ型でも「仕事能力」を評価することは簡単ではないにせよ、職務を限定しないメンバーシップ型よりは容易である。
ジョブ型になれば自己啓発のモチベーションが高まり各自がスキルアップに励むのではないだろうか。
メンバーシップ型でスキルアップしようとしても、職務無限定では3年後には野球選手になるのか、水泳選手になるのか、陸上選手になるのかわからないようなものだ。
そのような状況では一般的な基礎体力をつけておくしかない。

中高年になると仕事能力のバラツキは大きくなり、「同一労働同一賃金」は評価で大きく差がでる可能性が高く、ある意味、過酷な競争となる制度であろう。
人によっては不公平感を持つだろうが、「仕事能力」で評価される労働市場へと転換しなければ雇用の流動化は実現できないであろう。

なお、労働時間の上限規制は過労死、過労自殺を防ぐ意味でも必要だ。
残業至上主義をモットーとする人には不服な規制となるが、過労死を防ぐには法的根拠が存在しなければならない。
もっとも私自身は過労死、過労自殺の背景にはイジメの要素が大きいという印象を持っているが。

人々の賃金所得が全く増加していない状況は、成長戦略の大きな柱である労働市場改革の遅れが主な要因のひとつであると言われる。
今後、日本の経済が活性化されることを期待したい。