『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略(PHP新書)』遠藤誉

ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略(PHP新書)』遠藤誉
ウクライナでの戦況に関するニュース記事はよく目にするが、どのような背景があるのか知ることができなかった。
ネットには断片的には情報は存在するようだが検索するのも面倒だったので調べることはしなかったが、新書にまとめられた本書の存在を知って手にしてみた。

PHP新書1306

著者は中国問題グローバル研究所所長という肩書を持ち、中国語も堪能なようで少々失礼だが81歳という高齢でよくぞここまでデータ、情報を渉猟し分析する知力と体力には驚きを感じた。

https://grici.or.jp/

ウクライナにはチェルノブイリ原発があるということくらいしか知らず農業国という先入観を持っていたが、世界トップクラスの軍事産業を持っていた国というのは知らなかった。世界6位の戦略的弾道ミサイル生産国であり、旧ソ連の地対空ミサイルの62%、戦略ミサイルの42%を生産していたという。しかし、ソ連崩壊後は多くの最高レベルの技術者が非常に恵まれた条件で中国に招かれ活躍することになり、今ではミサイルと造船に関しては中国がアメリカを抜いていると国防総省が認めているという。
本書を読むと老獪さにおいては日本は足元にも及ぼないという諦観を抱いてしまうのは私だけだろうか。

私にはウクライナNATO加盟に拘る理由がわからなかったが、マイダン広場革命でヤヌコーヴィッチ政権が倒されてからは中立放棄、NATO加盟へと傾いてゆき、ゼレンスキー政権発足の3か月前にNATO加盟を努力目標とする憲法改正が行われているではないか。党の政策目標なら分からないでもないが、硬性の憲法典に記載することだろうか。これでは柔軟な外交もできない。このような例外状態においては憲法の一部停止、あるいは解釈改憲するしかいないのではないか。努力の義務が課せられているのは首相であって大統領には義務は課せられていないという解釈も可能だ。

ウクライナの中立が崩されていく経緯は「第五章 バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛」で説明されている。

あと、ロシアのウクライナ軍事侵攻に関する下斗米伸夫教授の発言が引用されている箇所をちょっと引用しておこう。

あるテレビ番組で「なぜプーチンはこのようなことをしたのか」という質問に対して
「昨年12月7日のバイデン大統領との(電話)会談で、バイデンがプーチンに、『ウクライナで戦争が起きてもアメリカは介入しない』
ということを、わざわざ告げたからではないか」ということを、理由の一つに挙げておられた。

これはイラククウェート侵攻前のエピソードを彷彿させる。
クウェート侵攻前にApril Glasbie大使に打診していたらしい。

Christopher Davidson "Shadow Wars"(paper back)p413

In particular,Saddam is understood to have sent a delegation to the US embassy in Baghdad prior to commencing action in August 1990, the members of which were told by the US ambassador that Washington would not take positions over any 'border disputes'.

フセイン氏は「よっしゃー!」と思ったのだろうか。
侵攻後・・・
「えらいことしてもたなぁー、お仕置きや!」
「な、なんでやねん。ええとちゃうん。」

了、いささか不謹慎でした。
(これは策略ではなく時間の経過と状況の変化で風向きが変わるという話も耳にしたことがあります。)