『安いニッポン「価格」が示す停滞』中藤玲 (c)2021

港区の年平均所得1200万円はサンフランシスコでは「低所得」

港区の年平均所得1200万円はサンフランシスコでは「低所得」に分類されるらしい?
「低所得」に分類されたことも驚きだが港区の年平均所得1200万円ということの方が私にとっては驚きであった。
「じゃー、港区に引っ越ししようか!」と引っ越したところで所得が上がることはないのでやめておこう。
まあ、サンフランシスコも別世界だが港区も縁のない世界なので、そのような世界のことは気にしないでおこう!

賃金の停滞

「日本の賃金はこの30年間全く成長していない」(矢代尚宏)、日本だけが低賃金なのはなぜなのだろう?

ということが挙げられていた。

労働生産性ということに関して野村證券金融経済研究所の許斐潤(このみじゅん)所長がドイツに赴任したときの印象が面白い。実際にドイツに行ってみたところ、「ドイツ人は全然働かないように見えた」という。これではとても「生産性大国」とは思えないが、モノが日本より高いので金額ベースではドイツの方が生産性が高いということになるみたいだ。

許斐所長は「ヨーロッパで5倍の時間をかけて作った車も10倍の価格で売れば、金額の生産性は2倍になる。それこそがドイツの生産性の高さだった」と分析する。

物価が高いから生産性が高く賃金が高いのね?うーん、鶏と卵みたいな話で訳が分からなくなってしまう。
ただ、これは許斐氏がドイツに赴任した30年前の印象や分析である。今でも本質的には正しい指摘ではあると思うが「途上国化」しつつある国の視点から見てみよう。
高級車の組み立て工場における生産性は日本が約17時間でヨーロッパは37時間から111時間というので「組み立て」の工程では日本の方が生産性が高いと言えよう。
ただ、車は走る半導体と言われるほどなので擦り合わせ技術中心の生産からモジュール型生産へ移行してからは、電気自動車ではなおさら半導体やソフトウェアの生産性がカギを握るようになってきたので「組み立て」以外の工程での生産性に注意する必要があるのではないだろうか。
なので本当はテスラなどをベンチマークの対象にした方が分かりやすいのかもしれないが、本書では触れられていなかった。が、さすがにこの領域に踏み込む分析を期待するのは虫が良すぎる。

外国の高度人材の獲得でも苦戦

賃金の停滞する日本では企業も外国の高度人材の獲得でも苦戦しているようだ。

ある日本の著名スタートアップ幹部は、IIT(インド工科大学)人材を渇望する。
以前同社のインターンに参加したIIT出身者が、自社アプリの使い勝手を良くするプログラミングで抜群の実績を残したのだ。
「こんなにも違うものかと驚いた」
だが彼は年収1700万円を出したアマゾンに入社してしまった。

インド人技術者を大量採用できた企業も、単純な作業しか任せなかったため退職が相次ぐことになるなど定着させるのに問題を抱えているようだ。
メンバーシップ型雇用は外国人には異様に映るというから、ジョブ型に転換しないと定着は難しいのだろう。
ただ、形だけジョブ型にしても不透明な評価基準が残るとグローバルな転職市場では通用しないとの忠告もあるくらいだから、道のりはかなり険しそうだ。

『途上国化する日本』もそうだったが、本書を読み終えると暗い思いになってしまう。
まあ、個人としては置かれた状況の中で努力するしかないのかな。

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