『「年金問題」は嘘ばかり』高橋洋一 (c)2017 

「ダマされて損をしないための必須知識」という副題を持つ本書のメモ

「年金は危ない」説は危機意識を煽ることで利益を得られる人々があり、利益団体にとっての「打ち出の小槌」のようなものだという。
財務省は消費税増税
厚労省は利権と天下り
・投資や年金保険などの商品を売りやすくなる
・FPのサービスを売りやすくなる
・メディアにはおいしい話題。

まず、年金の3つのポイントを押さえておこう。

  1. 年金は(強制加入の)保険である。
  2. 40年間払う保険料≒20年間受け取る年金
  3. 年金定期便は国からのレシート

年金は保険なので「老後の生活を保障するもの」ではない。でもまあ、一般市民の感覚では「老後の生活を保障するもの」と捉えているような気がするが、年金は「自分が長生きするかどうかわからない」という意味でのリスクに対する保険であり、長生きした人が得するもの。生活保護のような福祉でないので、生活を保障しないし、加入期間の違いによって月々の金額も違ってくる。「公的年金だけでは老後の生活に足りない」と思う人は、プラスアルファのことを考えて老後に備えておく必要がある。

国民年金の実際の未納率は約3%(233万人)である。
人数を見ると「結構いるなぁー」という印象を受けるが、割合でみると「なんだ、その程度か」という印象を受ける。
「未納率4割」のほとんどは制度上、免除されている人たちであるという。免除されているのに「未納」というのは御幣があるように思うが、まあ「実際の未納率」にだけみることにしよう。
・経済界は「年金負担を増やしたくない。」と考えている。まあ、当然だね。
公的年金でもらえる額は、「(生涯を通じての平均)月給の4割」が目安。でも、やっぱり年功賃金の退職時を無意識的に基準にするよね。

年金は「保険数理」で破綻しないように設計されている

p62

身もふたもありませんが、最初に結論をいってしまいましょう。
日本の公的年金制度は破綻しません。

保険は保険数理で計算されて成り立っており、「マクロ経済スライド」は給付される年金額を保険料収入の範囲内に収める仕組みが導入されているので破綻しない。
ここで、「きちんとマクロ経済スライドで調整していけば」という条件が付いてくる。
そして、
p66

もっとも、今後、想定以上の経済成長の落ち込みが長期にわたったりすれば、もらえる年金額が少なくなる可能性もあります。
そうなると、年金以外のところでも不満足なことがおこります。
その意味で、それは年金破綻ではなく、経済成長の低下によるものです。

制度設計が正しくても「経済政策」が悪いと絵に描いた餅になる

2009年の財政検証に対する「4.1%の利回りの想定が高すぎる」という批判に対する反論として、
p96

しかし、名目成長率を4%にできれば、長期金利が4%になるのは普通のことですから、それほどおかしな数字ではありません。

と擁護している。
しかし、コロナ禍を経験している5年後の時点からの批判ではあと知恵ではあることを認めつつも、
「名目成長率を4%にできれば」という条件の箇所はちょっと楽観的だったという気がする。

『第2章「日本の年金制度がつぶれない」これだけの理由』の最後から引用しよう。
p112

ここで見てきたように、巷の「年金破綻説」はだいたい間違っていますが、もし、本当に公的年金が危なくなるとすれば、それは
「ずっと経済成長をしなくなった場合」です。
経済が成長しない場合は、残念ながら年金は破綻します。
年金だけでなく、すべての社会保障が破綻します。

本書の全体の趣旨としては太鼓判を押してくれているが、ここの箇所は少し心配になる。すでに「ずっと経済成長をしなくなっ」ているように感じるのは私だけだろうか?
しかし、まあ、給付がカットされようが、されまいが、保険料は収めていくとしよう。