『地域分散型エネルギーシステム』植田和弘(監修)

「ベースロード電源」は死語となるのか?

以前のブログ
『精神論ぬきの電力入門』(新潮新書)澤昭裕 - willwealth’s diary
で、ベースロード電源としてもっと発電効率が高い石炭ガス化複合発電(IGCC)に注目してもよいのではないかと書いた。
しかし、どうも「ベースロード電源」という概念が揺らいできているようだ。
「分散型エネルギーシステム」では「ベースロード電源」という概念が時代遅れになるかもしれない。

「分散型エネルギーシステム」という言葉

この「分散型エネルギーシステム」という言葉は多義的で定義が明確でないので注意が必要だ。
日本でのエネルギー計画では、
再生可能エネルギーコージェネレーション等の分散型エネルギーを、一定のコミュニティーの中で、ITや蓄電池の技術を活用して管理すること」となるようだ。
即ち、「集中型システムを前提とした上で、それを再生可能エネルギーの変動性から守るために、マイクログリッドのような分散型の部分的に用意するシステム」ということになる。
あくまでも再生可能エネルギーは補助的な役割を期待されているに過ぎない。

日本では、分散型エネルギーへの期待が小さい上に、だからこそシステム全体を分散型に転換しようとは考えられていない。
そのような前提の上に作られる日本型「分散型エネルギーシステム」とは、風車ごとに蓄電池の併設を要求するなど、全体最適からほど遠いものになる恐れもある。

別に蓄電池を併設することは悪いことではないような気がするが、「全体最適」とはどういう意味なのだろうか?

京都大学大学院の経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座特任教授の肩書を持つ安田陽(やすだよう)氏による執筆の第6章からメモしておこう。

用語の定義

【定義】から始めよう。
電源そのものが変動することを許容しながら電力系統を運用するという概念を理解するためには用語の理解は必要だ。

VRE (Variable Renewable Energy)
風力発電太陽光発電などの変動する再生可能エネルギー
等価需要
負荷からVREを差し引いたもの。"net load"の訳。"residual load"「残余負荷」とも呼ばれる。
集合化
個々の家庭の負荷変動は予測できないが、集合としての一般家庭の負荷変動は予測可能となる。"aggregation"の訳。
予備力
調整電源あるいはバックアップ電源のこと。

需要と供給のバランスが崩れた場合、いくつかの電源が瞬時に出力を上下してバランスをとる。
「周波数制御」と呼ばれ、大きく3つに分類される。

  1. 発電機のガバナフリー制御(数秒~数分程度の周期に対応)
  2. 負荷周波数制御(数分~十数分程度の周期に対応)(LFC = load frequency control)
  3. 経済負荷配分制御(十数分~数時間程度の周期に対応)(EDC = economic dispatch control)

予備力は一般に以下の3つに分類されることに対応する。

  • 瞬動予備力
  • 運転予備力
  • 待機予備力

瞬動予備力は瞬時に対応できるが対応できる出力の幅は小さい。一方、待機予備力は大きな出力を持つが予備動作が必要で対応に時間がかかる。
運転予備力はその中間に位置する。

柔軟性
VREの変動成分を制御するための系統構成要素。
  • 制御可能な発電所
  • エネルギー貯蔵装置
  • 連携線(他の系統エリアとの電力融通)
  • デマンド・レスポンス(需要側のインテリジェントな制御)

5つの代表的な構成要素

  1. 連携線
  2. 熱電併給(コジェネ)
  3. コンバインドサイクルガスタービン(CCGT)
  4. 水力発電
  5. 揚水発電

局所的に蓄電池を設置するのではなく地域全体での予備力で補うという考え方なのではないだろうか。
局所的に蓄電池を設置しようとするとその地域で必要とする予備力以上の蓄電池を設置しまがちなので、蓄電池の代わりに予備力となる設備を設置したらどうでしょうかというものだろう。
このほうが社会全体としての投資が小さく済む。
アイルランドは連携線容量が小さいというハンディキャップがあるが、CCGTの原理は飛行機のジェットエンジンと同じなので即応性が高く、柔軟性を高めるために約20%も導入しているという。
2020年に再生可能エネルギー42%を実現しているアイルランドであるが、東大発のスタートアップ企業の技術も使われているようだ。
www.denkishimbun.com
exergy-power-systems.com

「再エネ電源は変動するから問題」なのではなく、「電力系統がその変動を受け入れられる能力を有するか」という問題こそが本質であるという。


再生可能エネルギーを利用できるかどうかは各国の地理的な状況で事情が異なるであるだろうが、他国の経験から学べることもあるとは思う。「東大発のスタートアップ企業の技術」が日本で使われているのかどうかは知らないが、使うことができない状況にあるのであれば、それはなぜなのだろうかと思ってしまう。
日本ではまだ欧州のように再生可能エネルギーの普及が進んでいないからなのか、電力系統がその変動を受け入れられる能力を持っていないのからなのか?
なんとなく使おうとしないだけなのようにも思ってしまう。
それにしても、私の誤読かもしれないがアイルランド以外にも、一時的にせよ9割を超える電力を再生可能エネルギーで電力系統を維持したことのあるポルトガルの事例は参考にすべきであろう。
もしや系統制御の技術は日本は遅れているのだろうか?
まさか、そんははずはないだろう!と思いたいのだが。
と、根拠なき妄想を綴ってみた。