清谷信一『防衛破綻』「ガラパゴス化」する自衛隊装備

著者は防衛産業の分析には定評があるらしく、本書でも我が国の防衛産業の基盤を維持したいという思いから、防衛省自衛隊、防衛産業に対して厳しい分析を提示する。
2010年の発行なので現在の状況は異なってきているかもしれないが、「見栄えのいい兵器」を調達する一方で、
携帯やパソコンは私物を使用し、セーターなども支給できず隊員は身銭を切らざるを得ない異常な装備調達の状況があることを指摘する。

現場の自衛官は演習のときも私物の携帯電話で連絡を取り合うという以下のようなエピソードが紹介されていた。

筆者が以前、陸自普通科小隊長の山田三尉(仮名)の携帯に電話をかけたときの会話である。
「ハイ、山田です。清谷さんですか。すいません、今状況(演習)中で蛸壺の中です。後でかけ直します」
「小隊長が、状況中に私物の携帯電話の電源を入れておいていいの?部下にしめしがつかないんじゃないの?」
「いえ、これがないと演習にならんのです」
無線機の性能が悪く、数も足りないため、現場の自衛官は私物の携帯電話で連絡を取り合っている。今や携帯電話がなければ演習にならない。
自衛官を取り込むためにauやソフトバンクは競って演習地周辺にアンテナを立てている。ある意味、喜劇的である。

自衛隊向けの無線は出力、周波数帯が厳しく制限されているために性能が低い」情状は酌量しなけれないけないだろうが、法規制のため外国製品を導入することができず「ガラパゴス化」している状況もあるようだ。
しかし、いざ実戦となったら圏外となるような場所での作戦行動は想定していないのだろうかとの疑問も生じる。

この例はまだ笑い話で済ますことができるかもしれないが、シーレーン防衛に関しては心配になってしまった。
国土交通省によると、戦時に国民が一定の生活水準を維持するためには、日本船籍の商船450隻、日本人船員5500名が必要とされているが、現状は92隻、船員は3000人未満となっている。
日本船籍であっても強制はできないので「戦時には船舶による輸送が途絶する」という。
指定海域外で海賊に遭遇したら見殺しにされるしかない現状で、有事の際に果たして自主的に運行してくれるだろうか。
危険を冒して運行してくれる船もあるかもしれないが、必要な数を確保できる保証はない。
有事の際には一定の生活水準は維持できない可能性が高いのではなかろうか。

ただでさえ地震や洪水などの災害の多く、食料とエネルギーとを自給できない国でロジスティックスを含め経済活動が停止したら、軍事攻撃を受けずして多くの命が失われることになるのではないか。

ソ連崩壊後に兵器市場は大きく変わり供給過剰の生存をかけた厳しい競争が行われており、
我が国の防衛産業にしても残すものと諦めるものを取捨選択しなければならないという。
「途上国化」しつつある日本は、多くを諦めざるをえないのだろう。
せめて戦時に備えた法整備を期待したいが、防衛は票にならないので関心をもつ政治家も少ないという。
票にならないということは、私も含めて一般市民も関心がないということだろう。