『途上国化する日本』戸堂康之

「日本経済がこの20年の長きにわたって停滞しているのは、技術進歩や生産の効率性の改善が停滞しているからで、そしてそれは日本経済の閉鎖性に起因している。」という。
1990年以降、日本の生産性はほとんど向上していないのは、

これは、おそらく英米ではIT技術の進歩によって生産性が向上したのに、日本はその好機を逸して完全に乗り遅れてしまったためだ。このような技術の停滞こそが日本の「失われた20年」の要因であることは、林文夫(一橋大学)とノーベル経済学賞を受賞したエドワード・プレスコットアリゾナ州立大学)との研究の中で説得的に示されている。

技術レベルは直接測ることは難しく、「もし世界各国で資本や労働の投入量が同じであれば、各国はどれくらい生産することができるか」を推計する全要素生産性という指標で代替するらしい。
工学的な技術だけでなく、創意工夫や経営的な技術も含んでいるので、生産性を測るには寧ろこちらの方がよいだろう。
この指標を使用した場合、2010年時点で日本はアメリカの7割程度とのこと。

私には十分に咀嚼できなかったのだが、どうも技術力向上とグローバル化は卵と鶏の関係みたいなもののようだ。
技術力を向上させるためにも、技術力のある日本企業はグローバル化しなければならないと主張する。勿論、どんな企業でもグローバル化さえすれば成功するなどと乱暴なことを主張しているわけではなく、
金融機関からの支援で生き延びている競争力のないゾンビ・グローバル企業もある。本書ではグローバル化すべき技術力、競争力のある企業を臥龍企業と呼んでいて、
「生産性がグローバル企業の中央値よりも高い非グローバル企業」と定義している。
技術は輸入してもよい。苦労は買ってでもしろというから、技術と苦労は買ってしまえということになる。

もしこのような停滞がこれからも続くと、10年後、2020年の日本はもはや先進国とはいえないところまで落ちてしまうだろう。

さて今や2022年、日本はグローバル化を深化させ、生産の効率性は改善されただろうか?
2020年のデータで、購買力平価(で調整した)GDPは以下のようになっていた。

順位 国・地域 GDP
2 シンガポール 98483
11 米国 63414
16 香港 59212
17 台湾 55896
29 イギリス 45853
32 韓国 43319
37 日本 41733
81 中国 17204

https://www.globalnote.jp/post-3389.html

2010年時点で予測されていたように韓国に抜かれているし、台湾とは大きく水をあけられているが、なんとか土俵際で踏みとどまっているといった感じだろうか。
しかし、相撲ではないのでうっちゃりを繰り出すことはできないので地道に技術進歩を続けるしかないのだろう。
グローバル化は「地道に」というよりは「乾坤一擲」に近いのかもしれないが。

『日本経済の底力』(中公新書)で、研究開発を伴った投資を政策的に促進すべきだと主張し、OECD諸国の中でも日本は海外からの投資に対して支援していないことを批判する。
そして、OECD諸国ではないがシンガポールの政策を紹介している。

イノベーションを核とした発展を目指しており、外国投資、特に研究開発投資を呼び込むための施策が非常に充実している。
例えば、先端的な特定の製品やサービスの生産から発生する利益には法人税を免除したり、研究開発費を税引前利益から差し引くことのできる二重控除制度を採用しているし、新技術開発を行う企業に対しては給付金を授与している。

日本の地方では産業集積が十分に育っていないが、その創出には政策介入が必要である。日本も思い切って経済特区、科学技術特区を設けるようなことをしないと「途上国化」は止まらないのかもしれない。